豊かな人生のためにテクノロジーに支配されない自分を取り戻す
人生を生きていくうえで、仕事、家庭、友人関係で、さまざまな悩みを抱える方も多いのではないでしょうか。
現代社会は、スマートフォンやSNSなど、私たちの集中力を常に奪おうとするテクノロジーに溢れています。これらのツールや環境は便利である一方で、集中力を低下させ、生産性を阻む要因ともなっています。
注意力を高めることは、単に仕事や勉強の効率を上げるだけでなく、人間関係を良くし、より充実した人生を送るための鍵となることを教えてくれる本をご紹介します。
『フォーカス』ダニエル・ゴールマン著 土屋京子訳 2015年 日本経済新聞出版社
本書は「注意力」を高めることが、人生を豊かにするためのヒントであることを強調しています。
注意力散漫がもたらすもの
現代社会では、テクノロジーが注意力を奪っています。家族や友人と一緒に時間を過ごしていながら、スマートフォンの通知に気を取られ、SNSのチェックを目の前の人との会話よりも優先してしまう。そんなシーンが日常になってしまっています。注意散漫の状態は、仕事や人間関係に大きなマイナスの影響を与えかねません。
「選択的注意」は騒音や不安などの多くの刺激の中から、必要なことだけに神経を注ぐ能力です。この能力が低下すると、雑音や感情に振り回されて必要な情報に集中できなくなります。
心がさまようマインドワンダリングも集中を妨げる最大の原因です。例えば、仕事中に突然気になることが浮かび、それに気を取られるといったようなことです。
本書では「情動を司る扁桃核」が危険や不安を察知しやすいことを指摘し、こうした情動に振り回されないためには、自分の内なるおしゃべりをコントロールする力が必要だと説明しています。
集中力を高めるための自己認識と意志力
集中力を高めるために、自己認識の重要性が強調されています。「自己認識は、人生の指針となる内なる声に耳を傾けるための集中」であると述べられています。
内なる声に耳を傾けると、自分の価値観や目標が明確になり、何に集中すべきかがわかるようになります
直観やソマティック・マーカー(身体感覚によるサイン)を活用することで、人生における難しい選択肢もスムーズに決断できるようになります。
自己認識を強化するためには意志力も重要です。著者は、「人生の方向を決めるうえで圧倒的に重要な要素は意志力だ」と述べています。誘惑に打ち勝ち、目標に向かって集中し続ける能力は、注意力を鍛えることと密接に関連しています。注意力は生まれつきのものではなく、鍛えることができるのです。
真の成長のためには一万時間だけでは不十分
一万時間の修練でその道の専門家になれるという「一万時間の法則」というのを聞いたことがあるでしょうか。
しかし、同じ失敗を繰り返したまま、ただ一万時間が経過するだけでは上達は望めません。 重要なのは、意識的な練習と修正を積み重ねることです。
脳に「は経験によって変化するという「神経可塑性」という能力があります。意識的な練習が脳の構造を変え、スキルアップにつながります。
客観的な評価を受けることは(フィードバック)、改善点を見つけ、練習そのものの質を高めていくのに効果的です。
ちなみにアマチュアはある程度無意識に動作できるようになるとそこで満足して集中的練習を止めてしまい、プロは無意識的動作に抗うように、意識した練習を続け、完璧を目指す傾向にあるそうです。
意識することで集中力、注意力は鍛えられ、望む結果につながるのです。
他者との共感と注意力
注意力は共感とも深く結びついています。
注意力は、個人の成長だけでなく、他者との関係性を深めるためにも重要です。「相手のことを思いやれば、それだけ注意を払うようになり、注意を払えばそれだけ相手のことを思いやっている」と本書に説かれています。つまり、目の前の人に集中するということが共感と、信頼関係を築く基盤になるのです。
現代では、オンラインでのやり取りが増えていますが、著者は「お互い顔の見える状況の交流」でのみ脳内の社会性を司る回路が活性化すると指摘しています。人間関係を深めるには、直接的な対話や共感が欠かせません。
「情動的共感」と「認知的共感」
共感は感情のシグナルを感じ取ることです。
相手の感情に寄り添う情動的共感と、相手の立場や考え方を理解する認知的共感の両方が重要です。これらの能力を高めるためには、まず自分自身の感情に気づき、注意を払うことが求められます。それがひいては他者の感情を推測することにつながるのです。
相手の表情や口調に注意を向けることができれば、相手の気持ちを推測し、適切に対応することができます。
「相手のことを思いやれば、それだけ注意を払うようになり、注意を払えばそれだけ相手のことを思いやっている、ということだ。注意は愛情と表裏一体なのである。」
注意力を鍛える
上述したように注意力は、努力によって向上させることができます。
例えば、毎日少しずつマインドフルネス(現在に意識を集中すること)の実践を続けることで、心の状態を安定させ、注意力を筋肉のように鍛えて強化できます。一度や二度心がさまよっても、それに気づいて集中を戻す行為を繰り返すことで、着実に進歩します。
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まとめ
書籍『フォーカス』は、注意力が人生を成功に導く鍵であることを教えてくれます。
選択的注意や自己認識を高めることで、自分の価値観に基づいた行動が取れるようになります。また、共感や人間関係を深めるためには、他者に注意を向けることが不可欠だとうことです。
ご紹介したほかにも、
- ビッグデータを活用した集団的注意
- 人間の脳は直近の危機にはすぐ気づくが、時間経過が伴う地球の危機には反応しづらいこと
- 優れたリーダーの条件、賢明な判断と自己認識
についても解説されていて、脳のシステムを意識的に行うトップ・ダウン、無意識に行うボトム・アップというキーワードで説明しているのが本書の特徴です。
日々の生活の中で、マインドフルネスや意識的な練習を取り入れて、注意力を鍛えてみませんか?
読み終えて
注意力、つまり集中することが他者との良好な関係を築くことができるんですね。たしかに、一緒にいるのにスマフォばかり見ていたのでは「私よりスマフォが重要なの?」と軽んじられた気持ちになるでしょうね。これが恋人同士なら「スマフォと結婚すれば?」なんて言われそうですよね。
また、相手の感情を推測するにはまず自分を知らねばならないということが勉強になりました。自分の感情を意識しない人は他者の感情にも無関心だということでしょうか。
自己認識が人間関係にかかわるということがよくわかりました。